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17.05.11Media
【2017.5.11 日本経済新聞】日本酒ビンテージに挑む
2017.5.11 日本経済新聞に掲載されました。
日本酒ビンテージに挑む
山口発、熟成の2年目戦略
昨年8月に発売され、話題を呼んだ山口県発の8万8千円(税別)の日本酒「夢雀(むじゃく)」。2年目の今年、仕込んでいた仕掛けが動きだす。ワインのように年号を表示して、熟成するほど価値が増す「ビンテージ酒」として売り出す。発売時はあえて伏せていた取り組みをオープンにする準備が整った。
香港などで人気
昨年11月、夢雀をプロデュースした企画会社アーキス(山口市)の松浦奈津子社長と原亜紀夫副社長は、ドバイにある世界一の高層ビル、ブルジュ・ハリファにあるアルマーニホテルにいた。日本料理店での夢雀の提供を祝うレセプションだ。価格は現地酒税の関係もあって1本(750ml)2万ディルハム(約60万円)。
12月にはカシオ計算機の世界限定300本の時計G-SHOCKゴールドと夢雀のコラボ商品を香港で販売。価格は100万円を超えるが、10セットは当日完売した。どちらも「最高の価格の日本酒が求められた」(松浦社長)と分析する。香港の酒販店での販売価格は6800香港ドル(約10万円)で日本酒では最も高い値付けとなった。
昨年8万8000円で発売 年号付き、上乗せ数万円
夢雀が目指したのは日本酒として最高の素材と最高の価格。元商社マンである原副社長らの「海外では、作り込んだ高額の日本酒が求められている」というマーケティング戦略に基づく。これが当たった。一方で熟成できるビンテージ酒という設定は開発当初からあったが「ちゃんと売れた後じゃないと、恥ずかしくて言えなかった」(原副社長)。初年度限定千本を8割方売り切った実績あっての告白だ。
というのも、日本酒の世界では基本的に製造後に早く飲みきるのがよいとされる。夢雀については、製造元である堀江酒場(岩国市)が錦川最上流の硬度の高い水を使って熟成酒研究に取り組んでいた。東京農大醸造学科卒の杜氏、堀江計全氏が指揮に当たった。
毎年200本を確保
「いろいろ偶然が重なって、ワインのように年を重ねて高値になる日本酒ができるのではと夢が描けた」(松浦社長)と振り返る。
昨年の仕込みから200本をビンテージ用に保存しており、夏以降に数万円のプレミアムをつけて販売する予定だ。今後も毎年同数を確保し、年号付きの熟成酒を仕込んでいく。
3月、山口県や山口銀行が出資するやまぐち夢づくり産業支援ファンドが、アーキスへの5千万円の投資を実施した。ビンテージ酒造りや、海外への拡販を期待する。カシオとのコラボは中国やシンガポールなどでも計画中で高島屋では国内のほか、海外店舗での販売も予定されている。
最近では夢雀の好調さをみて、他の蔵元から協業の申し出が相次いでいる。「夢雀のような幸運はそうあるものじゃない」(原副社長)ことも理解している。山口発のベンチャーは2年目の地固めへ向け、歩み始めた。(山口支局長 竹田聡)