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19.01.06Media

【2019.1.6 日本経済新聞】高級ワインにも負けない黄金色の日本酒

2019.1.6 日本経済新聞に掲載されました。

高級ワインにも負けない黄金色の日本酒

鏡開きで樽の蓋が割れると「桃やメロンのような香りが会場に広がった」と海外のバイヤー。2018年9月末に東京・銀座で開かれた山口県の純米大吟醸酒「夢雀」の初の試飲会。中身は16年産の3年ものの熟成酒で醸し手である堀江酒場(山口県岩国市)の杜氏、堀江計全さん(41)が選んだ。今春から750ml瓶が18万8000円(税別)で売られる。新酒時は8万8000円(同)だったので、10万円のプレミアがついたことになる。16年8月に年間生産量が1000本でスタートした夢雀は、高級ワインに対抗できる価格帯の日本酒、というコンセプトで海外を視野に開発された。

実際にドバイと香港でまず販売が決まり、国内で初年度に出回ったのは100本程度。18年8月に扱いが始まった松屋銀座では、ワインの棚で200万円のロマネ・コンティと並べられた。秋田正紀社長はその理由を「高級なワインと同じように、銀座でこそ飲まれるべき酒だと判断した」と語る。

ドバイでは世界一の高層ビル「ブルジュ・ハリファ」内のアルマーニレストランで供される。60万円という価格はイスラム圏の酒税ゆえだが、先日も有名な米国のポップ歌手が残っていた在庫2本を買い占め、販売元の地域産品企画会社、ARCHIS(アーキス、山口市)の松浦奈津子社長(37)があわてて堀江酒場に仕入れに駆け込む騒ぎとなった。

岩国市を南北に貫く錦川は清流として知られる。山あいの渓谷沿いに走る第三セクター鉄道を1時間ほどさかのぼった最上流にある錦町に、1764年創業の蔵元がある。13代目になる計全さんのもとに同郷の松浦さんが飛び込んできたのが14年のことだった。「食用米でワインに負けない、日本一高い酒を造ってくれという無理難題だった」と苦笑いする。しかし、もともと東京農大で熟成酒の研究もしていた堀江さんはワインに負けない、というフレーズにひかれた。

指定された原料は伊勢神宮の神田で発見され、ゆかりのある農家が錦町で栽培していた米、イセヒカリ。種別としては雑米なのだが、「山口から世界に通用する酒を造りたい」という地元の起業家、松浦さんのこだわりも理解できた。材料も人も故郷づくしという以上に、そのハードルの高さで杜氏魂に火がついた。堀江酒場の銘柄「金雀」は国際的な品評会で最高賞を2年連続で受賞しており、技術には定評がある。錦川最上流の硬水を使い、試行錯誤の末に18%という常識外の磨き方をしたとき、強く、甘い独特の香味が立ち上がった。

コンセプト以上に、外国人から味の面で評価されたことを喜ぶ。堀江さんは「日本酒は麹の味。そこが理解されたのは、意外だった」と素直に驚く。とにかくうまい酒を造りたいと、生酛づくりなどの製法や、どこの山田錦を使うなど原料には人一倍気をつかってきたつもりだが、「職人として、決められた条件で仕上げるのも勉強になると気付いた」。

山口市の湯田温泉に近い住宅街にたたずむ築100年近い古い日本家屋。紹介制で1日1組限定の料亭、「鸞家」は、市内では減った大人の会合の場として、政財界の重鎮も訪れる。山口の食材をふんだんに使った、イタリア料理を基本とする専属シェフの創意工夫が込められた皿に、あえて16年産の熟成「夢雀」を合わせてみた。出た当時は透明だった新酒は、注ぐと黄金色に変貌していた。日本酒用にあつらえられたグラスに注ぐとフルーティーさが際だってくる。含めば杜氏の目指す「強い」うま味、そして甘いだけではない酸を舌に感じることができる。

一般的に好まれる、水のように抵抗なく飲める純米大吟醸酒とは一線を画する。料理に合わせるには強すぎるかと思ったが、杞憂だった。つい酒ばかりが進みそうになる誘惑を、戒めねばならなかった。

竹田聡

2019.1.6