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20.01.07Media

【2020.1.7 朝日新聞】熟成重ね目覚める価値「夢雀」20万円ワインに挑む

2020.1.7 朝日新聞に掲載されました。

熟成重ね目覚める価値

「夢雀」20万円、ワインに挑む

750ml瓶1万円4888香港ドル。日本円で約20万円。堀江酒場(岩国市)がつくる「夢雀」が、熟成という概念で「世界一の日本酒」として注目を集めている。

香港政府の庁舎や高級ホテル、ブランドが集まる一等地、湾仔にワイン販売店「マディソンワイン」はある。フランスやイタリアから輸入された数百本のワインが眠る一角に、夢雀があった。この店での販売実績は、昨年10月までの半年で36本。顧客は銀行など大企業の幹部ら。一度に6本買った客もいた。「新鮮だった。夢雀は日本酒にヴィンテージという概念をもたらした」。この店の販売責任者、エリック・リーさん(44)は話す。

一般的に日本酒は、醸造や出荷から1年以内で飲まれる。ところが、夢雀は熟成を前提につくられている。低温保存することで、出荷から熟成を経るにつれ、果物のような香りや香ばしさが何層にも折り重なり、角がとれたまろやかな味に変化していく。

「ワインに負けない日本酒にしたい」。堀江酒場の杜氏、堀江計全さん(42)は話す。企画・販売を担当する山口市のベンチャー商社「アーキス」によると、政治家や企業トップが集まる海外のパーティーでは、1本数十万円のワインが持ち込まれる。高価格帯の日本酒なら取って代われるのではないか。国内市場が細るなか、堀江さんは挑戦が必要だと感じていた。

コシヒカリの突然変異種「イセヒカリ」を磨きに磨いた。50%以下なら「大吟醸」と名乗れるところを極限の18%まで。「使ったことのないコメ」と堀江さん。2016年、1千本を仕込んだ。

海外での反応は予想を超えた。16年秋、ドバイにある世界一高いビル「ブルジュ・ハリファ」であった試飲会で6本売れた。1本60万円。正規価格8万8千円の7倍近く。輸出先は香港、台湾、米ニューヨークへと広がった。

日本酒の熟成は以前から知られていた。堀江さんが触れたのは、東京農業大醸造学科に進学した約20年前。熟成途中の日本酒が研究室にあった。全国から集めた性質が異なるさまざまな酒を、冷蔵庫の温度を微妙に変えながら熟成させ、色や香り、味の変化を記録し続けた。香りだけが熟成して味が追いつかなかったり、「ひねる」と表現される劣化臭が出たり。一方で、うまみ成分のつまった重みのある味、複雑な香りにも変化する。「1+1が2にならない。3にも4にもなる変化がおもしろい」。魅力に取りつかれた。

奈良県の蔵元で修業していたころ。実家で、蔵や冷蔵庫で眠る10~20年前に醸造した純米吟醸を見つけた。父が残していた仕上がりがいい年の酒。口に含むと、鼻の奥に香りが広がり、舌の上には味がしっかり残った。仕込み方法や使う水、蔵のある気候や地形などさまざまな要素が合わさり、味に深みが生まれた。「熟成に向いているかも」。04年に実家に戻り、杜氏を継いだ。

15年には、地元岩国市錦町の酒米「山田錦」を40%まで磨いた、熟成を前提にした「プレミアム金雀」を醸造。世界最大の酒類品評会「インターナショナル・ワイン・チャレンジ」で、純米大吟醸の部で17,18年と2年続けて最高賞に輝いた。

夢雀の発売から3年あまり。「1本数十万円」という高級路線を追随する蔵が増えた。東京では現在、日本酒を100年間貯蔵し、香りや味の変化を研究するプロジェクトが進行中だ。堀江酒場を含む全国約30の蔵元などが関わる。

「日本酒に熟成は必要。これが世界を、日本酒を変える」(金子和史)

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2020.1.7 朝日新聞