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16.10.14Media
【2016.10.14 日本経済新聞】SAKE発信世界を酔わす
2016.10.14 日本経済新聞に掲載されました。
SAKE発信世界を酔わす
国際審査で表彰 輸出で蔵元連合
世界的な和食ブームに乗って日本酒の輸出が増えている。2015年の輸出額は約140億円で前の年に比べて22%増えた。約1兆円を輸出するフランスのワインに比べるとまだ途上国だが、輸出をさらに増やして地方の活性化につなげる取り組みが進んでいる。
5月に神戸市で開かれた世界最大級のワイン品評会「インタ―ナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)」の日本酒部門審査会。世界から訪れたワイン専門家らに囲まれ、にこやかに笑っている女性がいた。IWCアンバサダーの平出淑恵さん(54)。IWCの日本の窓口で、日本酒部門創設の立役者だ。
日本航空でソムリエ資格を持つ客室乗務員だった平出さんは同社の事業の一環でワイン教育に携わる。世界で最も難しいとされるワイン資格「マスター・オブ・ワイン」の保持者との交流を通じて、「歴史も技術もある日本酒は品質でワインに負けないという可能性に気付いた」という。
英国のワイン教育機関にかけあってロンドンで日本酒講座を実施。それがIWCの日本酒審査会の創設につながる。1回目は07年。「当初は酒が集まらなかった」が酒販店を通じて酒蔵に声をかけてもらったこともあり、228銘柄の出品があった。今年は1200銘柄以上で受賞酒は世界に発信され、ひっぱりだこだ。
今年の最優秀賞に選ばれたのは出羽桜酒造(山形県天童市)の純米酒「出羽桜 出羽の里」。仲野益美社長(55)は日本酒造組合中央会の海外戦略委員会委員長を務め「日本酒の文化を海外に伝えないといけない。業界を挙げたアピールが必要」と語る。
世界60都市へ出荷するなかで「輸出で一番大切なのは日本酒を正しく理解してもらうこと。それには教育が必要」と感じ、外国人を対象にした日本酒版ソムリエ養成制度を検討中。「酒蔵巡りも組み込み、受講者には称号を与えるなど国を挙げた制度を作りたい」と意気込んでいる。
同じ海外戦略委員会の委員である神戸酒心館(神戸市)の安福武之助社長(43)も輸出に取り組んできた。同社の「福寿 純米吟醸」はこれまで5回、ノーベル賞受賞式後の晩さん会で供された。実はこの酒は「海外マーケットを意識し、白ワインをイメージして開発した」。念頭に置いたのは「ソーヴィニヨン・ブラン」というブドウ品種を使った、きれいな酸味を持つ白ワインだ。安福社長は「日本酒が海外で高く売れるようにしなければならないし流通をきちんと構築する必要がある」との問題意識を持つ。
地域ぐるみで新たな販路の構築に乗り出したのが広島県日本酒ブランド化促進協議会だ。県内9蔵元と県でつくる。今春、フランスの酒類卸、デュガ社に4蔵元の7商品を初めて輸出。同協議会の三宅清嗣会長(三宅本店社長、57)は「展示会という手法もあるが、ビジネスベースのつながりが必要」と同社に取り扱いを要請した。複数の蔵元で協力して輸送することでコスト削減にもつながる。三宅会長は「2回、3回と輸出を重ねたい」。
一方、独自の商品の魅力で海外市場に乗り込む蔵元も増えている。全国的に品不足が続いていた「獺祭(だっさい)」を生産する旭酒造(山口県岩国市)は輸出拡大をにらみ昨年工場を増設した。桜井博志社長(65)は積極的に海外でセールス活動を展開する。円高にもかかわらず欧州への輸出は順調で、懸案だったパリ進出の話も進める。
1本(750ml)8万8000円(税別)、限定1000本の「夢雀(むじゃく)」。原料に希少な伊勢神宮由来の「イセヒカリ」を用い、磨き抜いた高級酒を売り込むのはベンチャー企業、アーキス(山口市)の松浦奈津子社長(35)だ。県内の蔵元に生産を委託、香港やドバイの高級ホテルでの取り扱いが決まった。「こんな日本酒は飲んだことがないと言われる。海外での認知度をさらに上げたい」と目を輝かせる。関係者の熱い思いが海外市場を開く。(伊藤健史、菊次正明、竹田聡)